*1)tanakanews.com

 まず私が何者かを説明しますと、インターネット上のニュースを使ってザッピングをやっているインターネットニュース・ザッパーです。ザッピングしたニュースから、陰謀説のような仮説を組み立てたりして、毎週1本ずつtanakanews.com(*1)というサイトでニュースを書いています。
 例えば今度のイラク戦争に関して言えば、イラク戦争の現場はイラクじゃないんだということを書いた。ではどこが現場かというと、アメリカのワシントンなんです。ペンタゴンやホワイトハウスの中枢で起きていることが、プロパガンダとかリークとかいう形でマスコミに流されている。テレビの映像を見てるとあまり気づかないんですが、活字メディアからは多種多様なプロパガンダの齟齬とかが見えてくるんですね。そして今年の1月と5月に「使用前・使用後」という感じでイラクを訪れてみて、そのことが確認できたもともとイラク戦争はアメリカの能動的な戦争です。アメリカにとってはテロやゲリラによる反撃も逆に素晴らしい兵器を使えるチャンス、になる、叩くべき敵の登場ですから。つまり本質はあくまでアメリカの事情なんです。
 今までのジャーナリズムというのは、真実があってその現場を取材することで記事を作るという、真実を起点とするツリーを構成していたのだけれど、最近ではそのツリーの先の方へ行くと、記事がまるでプロパガンダのようになってしまっている。例えばイラク戦争で何人死んだかなんて、イラク側はもちろん米軍でさえ正確には分からない。だから起点、根っことなる真実がないのに、木のふりをして報道を続けてるだけなんです。
 私が思ったのは、これは木じゃないんだから、ニュース自体に整合性があるとかないとか、最早分からないじゃないかと。それならば、それらを俯瞰する中で××っぽいというような仮説を立てて論じていくしかないだろうということです。

下條 僕は田中さんのメールニュースを2年ぐらい読んでいるんですが、観客のみなさんのために、アメリカの戦略についての田中さんのご所論を大掴みにお話願えませんか。今の世界の情勢をアメリカの戦略を基軸に見たときに、田中さんはどう思われているのでしょう。
田中 第二次大戦以降、アメリカでは軍事産業が国を動かしている状況が続いてきました。ヒトは死なないけど戦車や戦闘機を沢山使う冷戦時代は、それがうまく機能していたんです。でも冷戦は終わってしまった。ただ永続的に戦争状態にあるというのを止めたくないヒトがいて、そんなヒトたちが考え出したのが、「世界を民主化するんだ」とか「テロリストとの闘い」という論理なわけです。それが今のイラク戦争にまで繋がってきている。その一方で、そういう永続戦争はうまくいかないんじゃないかというヒトもいる。例えば人質救出作戦で有名になったジェシカ・リンチという米女性兵士が、実はあれはプロパガンダに使われたんだって言い始めているけれど、その裏で彼女に言わせてる人がいるに違いない。つまり、陰謀があるかと思えばそれを覆そうとする陰謀もあったりして、この話は半日あっても足りない(笑)。
下條 なるほど。田中さんは『米中論』というご著書の中で現在のアメリカを「遅れてきた帝国主義」と書いていらっしゃる。「植民地支配というのは産業効率が悪いので、独立させてカッコつきの民主主義政権を樹立させるという間接支配のほうが投資効率がいい」とも。こういう話に絡んで、産軍複合体であるブッシュ政権内には内部抗争もあって、ということなわけですね。
田中 そうですね。実はそれもキリがなくて、中東だけやってるつもりが、インド、中国、北朝鮮とどんどん広がっていってしまうんです。間接統治にしても、例えば石油利権の側のヒトは実は戦争は好まないんです。間接支配派。でも、今のブッシュ政権のやり口を見ているとサウジを潰そうとしているように見えて、そうなるとイラク戦争は石油利権の戦争ではないなと気がつく。間接植民地支配が何かうまくいかなくなって、まるでそれをリセットするかのような戦争が必要になっているのかな、とも思うわけです。
下條 田中さんはアメリカに対してとても批判的に見えるのですが、こと日本の戦後に関して言えば、アメリカの戦略の成功例ではなかったかと思うのですが。
田中 そうです、まさに大成功例です。
下條 民主主義を頂戴し、そこそこの生活レベルも頂戴し、大いなる平和を謳歌させてもらっている。そのやり方がなぜ今、うまくいかなくなったのでしょう。この20年で何かが変わったんですか。
田中 冷戦の時はソ連がリングに上がってくれたからうまくいったけど、今はそれがうまくいっていない。アメリカとしては、テロとの戦いとか世界を民主化させるとか、いいお題目を思いついたんだけど、ビンラディンやアルカイダが仮想敵にうまくはまってくれていない。
 イスラム文明との衝突を描いたハンチントンの『文明の衝突』という本は企画書だったと僕は思っているんですけどね。アメリカはプロジェクト国家なので、核兵器や人権、環境といったキーワードに基づいたさまざまな対立を描いてきたわけですが、その中で一番突っ走れそうだったイスラム文化との対立という図式さえ、結局うまく機能していないんです。
下條 もう一つ、ブッシュ政権の政策とアメリカの長期的戦略とをごっちゃにしてませんか?アメリカで同僚と話をしているとブッシュは大嫌いだけどプロアメリカ、みたいな意見がたくさんあって。
田中 いや、ブッシュ政権はある種のブラッシュアップされた産軍複合体なんだけど、もともとアメリカの中で強いのは多分、中道派のほうなんです。ブッシュ政権というのはタカ派やネオコンによる実験的なプロジェクトなんですよ。その実験が今失敗しつつあるわけですけど、そうすると数年後には中道派が盛り返すんだろうなと私は見ています。
下條 ところでアメリカにとって面倒なことが起こってると思うんですけど、第二次大戦後、新しい独立国で民主的な選挙をしても民主勢力が勝つとは限らないわけです。そこあたりはどうでしょう?
田中 そうですね。ただ中道派というのは極端な話、別に民主化を標榜しているわけではないんですよ。90年代にはフセインを支持してたわけですからね。アメリカに都合のいい政権を支持しているに過ぎないんですよ。
下條 なるほどね。言い換えると、民主主義化という建前とビジネスプランが一致しているかぎりにおいてはアメリカはいい国ってことになる?
田中 そうそう。アメリカが言ってくるへ理屈の向こうにはアメリカの企業や国家がもうかるとか迷惑な勢力を潰すとか、そういう裏があるわけです。
下條 最後に、根っこのない木だという部分をもう一度ご説明お願いします。
田中 現場に行って現場の話を聞く、国家のことは元首や政治家に聞くといった手法がこれまでの主流だったんですが、例えば今ラムズフェルド国防長官にインタビューできるとしても、僕が思うのは、多分彼らはホントのことは言わずによくできたプロパガンダを言うだろうってこと。でも、新聞記者は聞いた通りに書いちゃう。それこそが危ないんじゃないかと。それに現代の戦争なんてコンピュータでやってるわけで、現場に行っても全体の状況や戦略はなかなか見えてくるものじゃない。つまり、情報を発信する側、国家とか軍、企業の情報操作がうまくなっちゃったから、既存のやり方ではうまくいかなくなったのだと思う。それであれば、メディアが取材した内容を元に、分析を深めるという手法がいいんじゃないかなと。根っこのない状況を認めた上で、全体を眺めようとしているわけです。
下條 現場という言葉の意味が変わってくるのかもしれませんね。非常にホットな話題をありがとうございました。


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