下條 今回はモニターの中から失礼します。こんにちは、下條信輔です。
タナカ こんにちは、タナカノリユキです。ルネッサンス ジェネレーション、今年で7回目になります。
下條 早速ですが、今年のタイトル『リアリティ・ザッピング:同時多発TV』というのはちょっと分かりにくいかもしれないので、まずここで簡単に説明をしようと思います。
タナカ ルネッサンス ジェネレーションというのは、僕らが生きている時代や環境の中でのリアルな問題を、アートとサイエンスという両面から掘り下げようということでやってきているわけですが、テーマをどうやって決めているかというと、毎年、下條さんとのミーティングの中で、今年1年何があったか、という検証をするところからスタートするんです。そして今年の場合はやはり、去年のあの9.11以降、アメリカとイラクというかイスラムの問題が世界中を覆っていたように思います。そういう状況下において、もう一度メディアというものを問い直してみたいという気分があったわけです。
下條 サイエンスサイドから補足しておくと、私たちにとっての現実というのは、現在がこの一瞬だけであるとするなら、ほとんどすべてが過去か未来なわけです。もう一つは世界の現実というのは、「自分」「他者」「世界」という3つの関係から成り立っていると。現代のようなメディアに包囲されている状況の中で、われわれの現実感、現実を把握するメカニズムがどう変わってきたのかというモチベーションがあって、そういった現実に対する興味が噛み合ったといえるかと思います。
タナカ そうですね。
下條 今回はまず、東大の心理学者である市川先生に確からしさについてのビデオレクチャーを見てもらったわけですが、タナカさんは今の市川先生の確からしさに関するビデオレクチャーはいかがでしたか?考えてみるとタナカさんも、クリエイターとして常に確からしさを考えながら撮影したりしてると思うんだけど。
タナカ そうですね、自分の中でやってることに近いなという印象がありました。クリエイティヴの現場においては、直観によって判断がなされることがよくあるんですけど、でもその場合に僕は、最初に立ち現れた直観を鵜呑みにせずに科学的なデータを集めてみて、そしてもう一度直観に戻る、というようなルートを辿ってるような気がするんです。それを繰り返すことで、直観は改善されていくんじゃないかなと思います。
下條 僕は、結局は主観と客観のキャッチボールみたいなことだと思うんだけど。私たちの現実というのがすべて確からしさに関わっていて、その都度の行為が確からしさに対する賭けである、ということかなと思います。
タナカ 情報がこれだけ氾濫している現在において、果たして何が真実かという問題ってあると思うんですよ。それが合ってるか合ってないかじゃなくて、今回は自分がどう思うかという心理的とか認知科学的だったり、メディア表現におけるコードの問題とか、そういったポイントで話ができればなと思っています。
下條 キーワードを一つ言っておくと、この舞台のセットを見てもお分かりのように、ヒトによっては1日の大部分をテレビを見ながら過ごしているわけで、それを一つのきっかけとして確からしさやリアリティについて考えてみようという企画です。ということで今回も盛り沢山の企画をご用意いたしましたので、1日お付き合いください。


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