RDA(Re-Design Apartment)プロジェクト (アパートリノベーションプロジェクト)

環境・建築学部 建築系 建築学科担当 准教授 博士(工学)
建築アーカイヴス研究所研究員 
宮下智裕

居住空間に新しい価値を与え、暮らし方をデザインする

金沢工業大学の周辺には大学指定の寮やアパートが4000室以上もあり、多くの工大生が生活しています。このような学生街は地方や郊外の大学周辺には必ずといっていいほど形成され、アパートの老朽化やニーズに合わない造りが共通の問題となっています。本プロジェクトでは建築家や工務店のご協力をいただき、問題を抱える学生アパートのリノベーションを提案しました。学生は家主へのプレゼンテーションから、着工決定後のデザイン、進行管理、コスト調整まで工事以外のすべてを担当しています。

アパートのリノベーションといっても、部屋を美しく現代風に修繕することだけが目的ではありません。一人暮らし用のワンルームアパートに住むと、‘閉じこもる’‘隣人に無関心’‘地域住民と接触を持たない’という行動パターンに陥りがちです。リノベーションの際、ポイントになってくるのは、このような内へと閉じこもる行動パターンを外へと開く視点です。例えば、全室の窓に植木鉢を置く台を備えつければ、「植物好きが集まるアパート」というテーマを与えることができます。同じ趣味の隣人には関心が持て、外から緑が見えれば地域住民を喜ばせることもでき、コミュニティが生まれます。そして何よりの利点は、住む人が居住空間に愛着を持つようになること。住人が愛着を持っていればおのずとアパートは美しく保たれ、エコにつながります。学生はそんなリノベーションの本質を実感し、住む人の暮らし方や周辺環境も一緒にデザインするという俯瞰的な視点を身につけることができました。

既にあるものを最大限に生かすリノベーションの視点を養う

実際、リノベーションの工程に入ると、学生は‘新しいものを作ること’と‘既にあるものをうまく活用すること’の違いを実感する場面が多々ありました。例えば、当初撤去予定だった古い台所を、コストの関係上そのまま利用することになった時、経験が浅い学生は途方に暮れました。しかし、監修をしてくださっている建築家に「台所の棚の取っ手を替えるだけでイメージを変えられる」とアドバイスをいただき、無事コスト内でリニューアルをすることができました。リノベーションを得意とする建築家は、「既にあるものの良さを再発見し、ひと工夫施して新しい価値を吹き込むこと」に長けています。建物の再利用に価値が見出されている今、この発想をプロの建築家から直接学べたことは大きな意義があったと思います。

次のステップとして学生に望むことは、地域コミュニティを生みだす‘ソフト’の提案です。例えば、「植物好きが集まるアパート」なら、地域で育てている植物をそのアパートに集めて展覧会を開くことができれば、そこから地域コミュニティが生まれます。今までの建築家は建築デザインをすればそこで終わりでしたが、これからはアクションを生みだすところまでが建築デザインの領域。現在もいくつかのリノベーションが進行中ですが、そこから新しい地域コミュニティを生み出せればと思います。