空間情報プロジェクト

環境・建築学部 環境系 環境土木工学科担当 教授 工学博士
専門基礎教育部長/サブジェクトライブラリアン室長/上級教育士(工学・技術)
鹿田正昭

地域・企業と交流しながら、空間情報技術の活用法を提案

デジタル写真測量やレーザー計測など、新しい技術の開発が加速する「空間情報工学」。準天頂衛星「みちびき」は平成23年から北陸でも電波受信がスタートし、本格的な運用が始まれば同分野の技術革新につながります。本プロジェクトの大きな特徴は、企業・地域と交流を持ちながら、発展めざましい空間情報技術の活用法を提案し、学生自身も理解を深めていったこと。学生は学内のみで行う実習や卒業研究では決して得られない貴重な経験をしました。

具体的には、まず地域の小・中学生を対象とした「カメリアキッズ」の開催が挙げられます。このイベントは、プロジェクトで開発した環境測定システムを学生が先生となって地域の子どもに教えるというサイエンススクール。空間情報工学を初めて学ぶ小・中学生に一から知識を教えることは、自分の知識確認にもなります。学生は子どもからのどんな質問にも答えられるよう専門領域を超えて空間情報工学の知識を深めました。また、国土地理院など、学生が普段、足を踏み入れることがない場所を見学したこともエンジニアとしての視野を広げる上で有効だったと感じています。

大学と企業の垣根を越えた共同研究に発展させたい

技術革新が進む分野だけに、異分野からも注目を集める空間情報技術。私自身、金沢地方気象台や地元の経済界からも講演依頼があり、驚いています。社会が空間情報技術に興味を示し大学とコンタクトをとることは、すなわち学生の研究フィールドが広がること。自身が担当したプレゼン資料や研究データが実際に講演で使用されるところを見ることは、学生のモチベーションアップにつながります。

今後、学生と企業の連携をさらに深め、垣根を取り払った研究ができればと考えています。学生は企業人とふれあうことで知識・技術を深める、企業人は大学のデータを利用した開発にとりくみ、自身も研究者としてのスキルを高めるという一歩踏み込んだ形での共同研究を行うことが理想です。

 

環境・建築学部建築系 建築学科担当 准教授
建築アーカイヴス研究所研究員/地域防災環境科学研究所研究員/未来デザイン研究所研究員
下川雄一

あるようでなかった学科の枠を超えたプロジェクト

本プロジェクトの特徴は「空間情報」を共通テーマに、環境土木分野と建築分野の学生が学科の枠を超え、交流しながら知識を深めていったことです。これは今まであるようでなかった取り組み。全国の大学を見てもめずらしいのではないでしょうか。

合同プロジェクトのため、「空間情報」に関連する複数の教員が参加しています。私は建築が専門ですが、現在、関わっている東本願寺(京都)の改修工事においてレーザー計測の有効性が高く評価されたことが参加の動機になりました。築100年を超える古い建造物はひずみが大きく、実測だとデータにかなりの誤差が出てしまいますが、レーザー計測を活用すれば精巧な3次元モデルが制作できます。さらには計測データを生かすことで、今後の改修工事や維持管理をスムーズに行うことも可能です。最近では普及率が徐々に向上し、企業からの注目度も高いレーザー計測ですが、一方では建築分野での活用方法が未開拓というのも現状です。本プロジェクトは、新しい空間情報技術の活用方法を発信する拠点であると同時に、異分野を融合させながら技術を活用できる人材育成の場ともなっています。

学びのフィールドが広がると進路も広がる

教育的な効果でいえば、プロジェクトを経験することで、学生の就職に関する意識は確実に広がっています。私のゼミに建築設計と都市景観の両方に興味を持った学生がおり、3年次まで進路は漠然としていました。しかし、プロジェクトに参加し、レーザー計測を使った公共空間づくりにふれたことで、公務員に進路を絞りました。公務員というと安定志向のイメージがありますが、彼の場合は ‘建築と町づくり’という自分の希望を実現できる場として最もふさわしいのが公務員だと判断しました。当初、技術者の道も考えていたようですが、プロジェクトを経験し、公務員として町づくりの舵取りをするおもしろさに魅かれたようです。また、東本願寺の改修工事にも3名の学生が参加しましたが、建築コンサルティングに興味を示し、進路のひとつとして考えるようになっています。

学科の枠を超えた「合同研究発表会」も教育的な意義が大きかったと感じています。参加教員はいずれも「空間情報」に詳しく、技術の良し悪しなどダイレクトな評価をするため、学生にとって刺激的な学びの場となったはずです。

今後、プロジェクトでは、建築側の発想から新しい提案をしていきます。まず、ひとつは月見光路で構築した「拡張現実」を建築的観点からバージョンアップすること。そしてもうひとつがBIM(BuildingInformation Modeling)の活用です。レーザー計測で取得した点群データを有効に使うための技術開発や、それらを計画に結びつけるノウハウを提案し、人材育成と企業の技術力アップにつなげたいと考えています。