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【EV・HV用モータ研究最前線】
電気自動車、ハイブリッド自動車向け新型モータの研究で電気学会産業応用部門「YPC優秀論文発表賞」受賞、上位5人に選出。大学院電気電子工学専攻の八倉巻さん

大学院電気電子工学専攻博士前期課程2年の八倉巻祐亮さん(深見研究室)が、8月29日(火)から31日(木) まで函館アリーナで開催された平成29年 電気学会 産業応用部門大会(JIASC2017)において、「ヤングエンジニアポスターコンペティション(YPC)優秀論文発表賞」を受賞しました。八倉巻さんは、評点が高かった上位5名に対してIEEE IAS(米国電気電子学会・産業応用部門)より贈られるYoung Engineer Competition Awardも贈呈されています。

論文題目 : 固定子分割型および外転型磁束変調同期モータの特性比較

著  者 : 八倉巻祐亮・深見 正(金沢工業大学)

掲載論文集: 平成29年 電気学会産業応用部門大会 講演論文集

電気学会産業応用部門大会は、毎年、全国の企業・大学の技術者・研究者ら1000人以上が参加者する大規模な学会です。

YPC優秀論文発表賞は、電気学会の産業応用部門が、若手技術者の育成を目的に、26歳以下の学生あるいは企業の若手技術者が行った研究発表に対して、「研究の内容」「論文の書き方」「発表の仕方」「ポスターの出来映え」「質疑応答の仕方」の5項目について審査を行い、全体の10パーセントの優秀な論文発表に対し本賞を授与しています。

今回の大会では、全国の大学・高専・研究機関などから、YPCに対して168件の発表があり、そのうち17件が同賞を受賞しました。八倉巻さんはその中でも上位5人に選ばれました。

八倉巻さんは、昨年度の電気関係学会北陸支部連合大会でもIEEE名古屋支部からIEEE Student Paper Award(学生奨励賞)を受賞しています。北陸電力に内定しており、来春から電気技術者としての第一歩を踏み出します。

ニュース解説:受賞した八倉巻さんの研究にみるモータ研究の面白さ

電気自動車に交流モータが使われている理由

八倉巻さんが所属する深見研究室では電気自動車・ハイブリッド自動車向け新構造モータに関する研究に取り組んでいます。

みなさんがモータと聞いてイメージするのは乾電池やバッテリなどの直流を使用した直流(DC)モータが多いのではないでしょうか。直流モータは、モータの外側のステータ(固定子)と呼ばれる固定した部分とモータ内部で回転するロータ(回転子)からなります。ステータには永久磁石が使用され、内部のロータに電気を流すことで、「フレミングの左手の法則」により、力が発生し、ロータが回転します。これがモータの原理です。

ところが直流モータの場合、「ブラシ」と呼ばれる部品を通じてロータに電気を流すため、ブラシとロータの接触部分が摩耗する問題があります。このため耐久性が求められる電気自動車やハイブリッド自動車では、ブラシを使わないモータ(ブラシレスモータ)として交流同期モータが走行用のモータとして使われています。

交流モータはブラシレスであること以外にも、自動車で使用する場合に大きなメリットがあります。交流モータの回転スピード(回転数)は交流の周波数に比例します。したがって周波数を高くすればスピードもあがります。周波数はインバータという装置で直流から交流にする際に自在に変えることができるため、電気自動車やハイブリッド自動車では、バッテリからの直流をインバータで交流に変換する際に周波数も適宜変え、車輪の回転スピードを制御しています。

自動車の始動に必要なトルク

少し話題を変えて、自転車を例に「トルク」とは何か考えてみましょう。自転車は最初動き出すまでペダルを踏み込んでペダルの軸をゆっくりまわし、回転が速くなるとペダルの軸を回す力は小さくなる、という経験をしたことがあるかと思います。「トルク」は簡単にいえばペダルの軸を回す力、回転力です(この場合、「ベダルの軸についた柄の長さ(m)」に「ペダルに加えた力(kgf)」を掛けたものがトルク(kgf・m)。国際的にはNmと表記されます。Nはニュートン)。回転数を下げればトルクは上がり、回転数が上がればトルクは下がります。

これは自動車の場合も同じで、電気自動車・ハイブリッド自動車の走行用モータは、始動や登板時などにはトルクが必要ですが、常用回転から高速回転域ではトルクは要らず、回転速度が要求されます。

電気自動車やハイブリッド自動車で使われている交流モータの問題点

現在、電気自動車やハイブリッド自動車で使われている交流モータは、ステータ(固定子)に、電流を流すコイル(電機子コイル)が施され、ロータ(回転子)には磁束を発生させる永久磁石(いわゆる磁極)が取り付けられています。

電機子コイルに電流が流れると永久磁石の磁束により、ロータを回す力が発生します。そしてトルクの大きさ(回転力)は、電機子コイルに流す電流と磁石からでる磁束の積に比例します(フレミングの左手の法則)。

ここで問題になるのは3点あります。

1点目はトルクの問題です。自動車の走行モータには、高トルクでスムーズに発進できるよう、ネオジム磁石などの磁力の強い永久磁石を使用していますが、高速回転ではトルクは不要で回転速度が求められるため、磁力が強いままだと効率の低下につながります。

2点目は、モータは回転すると発電機にもなってしまうことです。これは導線を磁場の中で動かすと、導線に電流が流れる現象で、「電磁誘導」「フレミングの右手の法則」として知られています。

つまりモータは、回転速度が上がると発電が行われ(逆起電力)、電圧が大きくなると、インバータからモータへ流れる電圧と同じになってしまうため、モータはある程度の回転数に達してしまうと、それ以上回転数が上げられなくなってしまうのです。

これらの問題を解決するにはモータ内の磁界を弱めればいいのですが、永久磁石自体ではこれが難しいため、「弱め磁束制御」など、誘導電圧を抑えるいくつかの工夫が考えられています。

3点目は磁石そのものの問題です。ネオジム磁石はレアアースを使用しているため、電気自動車やハイブリッド自動車が世界中で今後爆発的に普及してゆくと、資源やコストの面から大きな問題となります。

深見研究室が考案した磁石を使わない自動車走行用モータ

したがって、自動車のように高トルクが求められる低速域から、回転速度が求められる高速域まで、スムーズな加速を実現するためには、磁極(磁力)を状況に応じて調整できる、いわゆる可変磁力モータの開発が必要となってきます。

深見研究室では磁石を一切使わない新構造の自動車走行用モータとして「磁束変調同期モータ」と呼ぶ交流モータを考案し、金沢工業大学と東芝三菱電機産業システム(株)とで、国内外に特許を取得しています。

「磁束変調同期モータ」は、ロータ(図1 回転子)と呼ばれるモータ回転部分にある磁極(トルクを発生するのに必要な磁束を作る部分)を、ステータ(図1 固定子)と呼ばれるモータの外側部分から作る、新しい仕組みのモータです。

ステータ(固定子)に、電流を流す電機子コイル(図1電機子巻線  Wa)のほかに、これとは異なる周期の磁束を発生させる界磁コイル(図1 界磁巻線 Wf)を設けます。

コイルに電流を流すと磁界が発生します(アンペアの右ねじの法則)。磁束変調同期モータでは、磁界の波を変調して、異なる周期の磁界の波を作る「磁束変調」という技術を使い、ステータにつけた界磁コイルに直流を流すことで発生する磁束を磁気的な凹凸を持つロータで変調して、モータ内にN極、S極の磁極を作ります。そして、この磁極からでる磁束と、電機子コイルを流れる交流によりトルク(回転力)が発生し、ロータが回転します(フレミングの左手の法則)。

こうして磁束変調同期モータはきわめて簡単な構造で、ロータの部分に磁石を使った通常の同期モータと同じような磁極を非接触で作ることができ、また磁力がステータ側から可変できるため、高速運転においてトルクを弱めたり、またモータ内の磁界を弱めたりすることが容易になります。

こうした長所を持つ磁束変調同期モータですが、今後、電気自動車やハイブリッド自動車で普及させてゆくには、トルクの向上が課題となっていました。

この解決策としては、ステータにあるコイルの面積(スロット面積)を拡大させ、コイルの巻き数を増やすことで磁力を強め、トルクを高める方法が考えられます。

八倉巻さんの発表内容

過去には、深見研究室の研究をもとに、ステータ(固定子)を外側と内側の二つに分け、内部空間を活用する「固定子分割型」が海外の研究者から提案されています(図2)。

この場合、モータ内部のスロット面積は拡大しますが、複数の鉄片から構成される回転子(図2 回転子鉄片)を内側固定子と外側固定子の二つでサンドイッチのように挟むため、構造が複雑で堅牢性に欠けるという問題が指摘されています。

八倉巻さんが今回提案したのは「外転型」の磁束変調同期モータです。モータの内部空間を有効に活用して高トルク化する方法を検討した成果を発表しました。

この「外転型」モータは、ステータ(固定子)をモータの内側に置き、ロータ(回転子)は外側にあります(図3)。回転子は突極の鉄心で構成されているため、構造が簡単かつ堅牢です。さらに次世代の電気自動車では駆動輪にそれぞれモータを配置してタイヤを直接駆動するインホイールモータが主流となると考えられ、八倉巻さんの研究はこのインホイールモータでの使用を見据えたものとなっています。


八倉巻さんはコンピュータシミュレーションによって「固定子分割型」と「外転型」との特性比較を行いました。

電機子コイル、界磁コイルの電流密度が6A/平方ミリメートルのとき、

・平均トルクは、固定分子型が15.0Nmに対して外転型は15.9Nm

・トルクリップルファクター(滑らかに回らない、トルクのむら)は、固定子分割型が35.5%に対して外転型は16.5%

・トルク密度は内転型とくらべて、固定子分割型で26%増、外転型では31%増加

・固定分割型の鉄損は、固定子82.9W、回転子10.7W。外転型の鉄損は、固定子30.5W、回転子36.3W

*鉄損:磁性材料の鉄心(コア)にコイルを巻き、交流で磁化した時に失われる電気エネルギー。

以上のことから、単純な構造を持つ外転型は、固定子分割型と同等のトルクを得ながら、損失を低減し効率を向上できることを示しました。

磁束変調同期モータは、磁石を使用した交流モータに比べトルクに関して課題があるため、これからの研究の進展が期待されています。

金沢工業大学(深見研究室、小山研究室)と三菱電機(株)が共同で新型モータを開発

2017年9月18日の日本経済新聞は「EVモーター省エネ競う」という記事の中で、金沢工業大学と三菱電機が、走行速度が変わっても効率よく回転する新型モータを考案したことを明らかにしました。

低速走行と高速走行ではモータに求められる回転速度とトルクが異なるため、金沢工業大学の深見教授と小山教授、三菱電機の共同チームは、永久磁石を使うモータと電磁石で動くモータを組み合わせることで問題を解決。その実用化を目指しています。


*2017年9月18日の日本経済新聞掲載の記事「EVモーター省エネ競う」の英語版はwebサイト『Nikkei Asian Review』 で9月24日に掲載されています。
Nikkei Asian Review, September 24, 2017
”Energy-saving EV motors now in overdrivew-in-overdrive”


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