磁石の本性とその効果の価値について
1562年
ジャン・テニエ(1509-?)
 テニエはベルギーの医者で、詩人、音楽家、法律家、占星術師でもあった多才の人物です。 本書で彼は、磁気、落体の運動理論、砲術、潮汐理論、船舶設計など多岐にわたる問題を論じていますが、実はその重要部分は盗作によるものでした。つまり、磁気に関しては、ロジャー・ベーコンが「実験の巨匠」として賞賛したフランスのピエール・ド・マリクール(ベトルス・ペレグリヌス)が1269年に書いた「磁石についての手紙」-これは組織的な実験によって、磁気の引力、磁化作用、南北極の区別、そのコンパスの応用と製作の実際について述べた画期的な文書でした-の内容を自分の研究成果として述べているのです。また、アリストテレスの落体理論を批判する事になる、重いものも軽いものも同速で落下するという理論とその証明は、イタリアのベネデッティ(1530-1590)が1554年に出版した、ガリレオにも影響を与えたと思われる「アリストテレスによる落体運動の証明」という本の盗作だったのです。ベネデッティは盗作に気付き、1575年に出版した本の中でテニエを非難していますが、皮肉な事にベネデッティ自身の著作は余り売れず、かえってテニエの本書が広く読まれ、1578~1579年にはリチャード・エデンによる英訳まで出て影響力を持ったのでした。例えば、ケプラーは本書とギルバートの「磁石(1600年) 」とを読んで、惑星運動において働いている力は磁力なのではないか、と考えましたし、ステヴィンは1586年の「つり合いの原理」の中でテニエの落体理論( 実はベネデッティのもの) を引用しているのです。テニエのこの本が盗作に基づく事が一般に知られる様になったのは実に1741年のことでした。