自然哲学の数学的原理 (プリンキピア)
1687年
アイザック・ニュートン(1642-1727)
 ニュートンは、彼以前の自然科学上の成果がひとつの流れとなり流れ込む流入点のような、また、彼以後の研究の流れが源を発する水源地のような人でもありました。この注目すべき書物でニュートンは、タルターリアに始まり後にステヴィン、ガリレオ,ホイヘンスによって展開された力学上の数々の成果や、コペルニクス、ブラーエ、ケプラー、ガリレオ、ホイヘンスによる天文学上の諸々の業績を系統立てて、ひとつにまとめたのです。本書は、科学史上のみならず人類文明史上においても革命的意義を持つと言っても過言ではないほどの大きな影響を示した著作であり、科学を完全に、根本から変えてしまったのでした。科学が宇宙を理解するひとつの方法であるとすれば、ニュートンは、新しい宇宙観、宇宙の新しい「パラダイム」を作り上げたのでした。
 本書、ニュートンの「プリンキピア」は三巻から成っています。第一巻は、ユークリッドの「原論」風に、いくつかの定義から始められています。ニュートンは、質量、運動量、静止力としての慣性、外力、求心力などを、すばらしく簡潔に、論理的に明快に定義しました。そして、それらの基本的概念にもとずく有名な三つの法則、いわゆるニュートンの法則を提示しました。第一法則は慣性の法則で、全ての物体は外力の作用を受けない限り静止または等速度運動の状態を続けるというものです。第二法則は、運動の変化に加えられた外力の大きさに比例し、力の加えられた直線方向に起こるというもの。第三法則は、二つの物体が相互に及ぼす力、作用と反作用は、大きさが等しく方向は反対になるというものです。この第三法則がニュートンの力学上の業績でとりわけ独創的なものでした。最初の二法則は彼の先駆者たちの研究によってすでに定義されていたのですが、それらを厳密に数式で表わし、論理的に系統立てたのはニュートンが最初だったのです。第二巻では流体力学を論じて、デカルトの渦動宇宙論を徹底的に排除しています。
 ニュートンの最大の業績である万有引力論が登場するのは第三巻です。そのなかでニュートンは、二つの物体はある力をもって相互に引き合うこと、そして、その力はその物体の質量に正比例し、物体の間の距離の二乗に反比例するという相互引力の法則がすべての物体ほあてはまると主張しています。ケプラーの第三法則、及びホイヘンスが1673年その主著「振子時計」 に書いている等速円運動の場合の求心力を求める公式から導かれる結論、力は二つの物体間の距離に反比例しなければならないということはニュートンはもちろん、ロバート・フックならびに他の科学者たちを当時すでに知っていました。しかしこの法則は、等速円運動をしている物体や天体などにのみ応用できるので、ケプラーの第一及び第二法則に従うような楕円運動をするものには適用できなかったのです。ニュートンはそれら全てを総合し、引力理論に基づいて、力学を宇宙全体の学問に用いられることを確かにした唯一の科学者だったのでした。すなわちニュートンは極微粒子から巨大な天体に至るまで宇宙にあるすべてのものにあてはまる単純明快な理論を樹立したのです。これこそがニュートンの万有引力理論であって、この理論によってニュートンは、アインシュタイン以後の現在でも、われわれがなお常識的に抱いている力学的宇宙観の不動の地位を築き上げたのでした。